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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)94号 判決

東京都台東区鳥越二丁目一四番五号

原告

宗教法人 信入院

右代表者代表役員

渡辺一雄

右訴訟代理人弁護士

長谷川正浩

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被告

浅草税務署長 渕井浩

右指定代理人

山田知司

藤村泰雄

田尻憲

小田有邦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求の趣旨

被告が平成元年三月二八日付けで原告に対してした、原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度に係る法人税の更正のうち、所得金額七三九万二四六六円、納付すべき法人税額二〇六万九七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、自己所有の土地に係る賃貸借契約を解除し、同土地上にあった賃借人所有の建物を譲り受けた上、これを他に転売するとともに、同土地について建物買受人のために借地権を設定した宗教法人が、その建物売却及び借地権設定に伴い収受した権利金を、非収益事業による所得として益金に算入せずに法人税の申告をしたところ、被告からこれを収益事業による所得として益金に算入すべきもの等として更正を受けたため、この更正及び過少申告加算税賦課決定の取消しを求めて提訴した事案である。

一  公益法人に関する課税関係等

1  法人による借地権設定の場合の税務上の取扱い

法人が自己所有の土地に借地権を設定した場合には、これにより得た収益は、原則として、資産の賃貸料収入として、不動産の貸付に係る収益の額に該当する。

しかし、借地権の設定により、当該土地の値下がり額がその設定の直前における土地の価額の一〇分の五以上となる場合、すなわち、土地所有者が土地の価額の一〇分の五以上の権利金を収受して建物又は構築物の所有を目的とする借地権(以下「土地譲渡類似借地権」という。)を設定させた場合、その設定は、法的には賃貸借契約の締結にほかならないのであるが、かかる場合には、土地所有者の地位は相対的に弱体化し、土地の所有権はあたかも地代収受権のみに転落したかのようになる。つまり、右借地権の設定は、経済的、実質的にみれば、一種の土地の部分的譲渡と同視できることになる。そこで、税務上も、これにより収受した権利金を土地の部分的譲渡の対価として取り扱う場合がある。すなわち、法人税法(以下「法」という。)においては、資本等取引以外において純資産の増加をもたらす一切の収益を益金とすることとしており、地主が借地権の設定の際に収受した権利金も右益金を構成するのであるが、法人税法施行令(平成三年政令八七号による改正前のもの。以下「令」という。)一三八条一項二号は、土地譲渡類似借地権の設定の場合には、その設定直前における借地権の譲渡原価相当額を損金の額に算入する旨定めている。つまり、法人が土地譲渡類似借地権の設定をしたことにより生じた損益についても、資産の譲渡対価として、土地そのものの処分損益と同様に取り扱われることになる。

2  公益法人の課税の要件

公益法人の所得については原則として非課税であるが、公益法人が収益事業を営む場合、その事業により生じた所得は法人税の課税対象となる(法七条)。

ここにいう収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいい(法二条一三号)、令五条においては、右事業の一部として、不動産販売業(令五条一項二号)、不動産貸付業(同項五号)その他(いずれもその性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)を定めているところ、不動産貸付業については、令五条一項五号へにより、「主として住宅の用に供される土地の貸付業(イからハまで及びホに掲げる不動産貸付業を除く。)で、その貸付の対価の額が低廉であることその他の大蔵省令で定める要件を満たすもの」が、収益事業から除外されている。右の「主として住宅の用に供される土地」の解釈については、法人税基本通達(以下「通達」という。)一五-一-二〇により、「その床面積の二分の一以上が居住の用(貸家住宅の用を含み、別荘の用を除く。)に供される家屋の敷地として使用されている土地のうちその面積が当該家屋の一〇倍に相当する面積以下であるものをいう」と定められている。

そして、令五条にいう「その性質上その事業に付随して行われる行為」とは、通達一五-一-六により、「通常その収益事業に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為をいう」とされており、その例として、通達一五-一-六の(6)に「公益法人等が収益事業に属する固定資産等を処分する行為」が掲げられている。

3  キャピタル・ゲイン等の取扱い

一般に、土地、建物等の固定資産の譲渡利益は、資産の長期にわたる保有期間中に物価の騰貴等所有者自身の意思によらない他律的要因によって逐次生じた資産の値上がり益が実現したものである場合が少なくないが、このようなキャピタル・ゲインは、直接の事業活動の結果得られたものではなく、長期間にわたり保有していた固定資産の処分という偶発的な取引によって生じた損益であるところから、継続事業から生じた事業所得について課税することとしている現行の公益法人等に対する収益事業課税制度のもとにおいては、課税の対象としてなじまない面がある。このようなことから、課税実務上は、公益法人が収益事業に属する固定資産につき譲渡、除却その他の処分をした場合におけるその処分をしたことによる損益は、右2のように原則として収益事業に係る損益となる(通達一五-一-六)としながらも、「相当期間にわたり固定資産として保有していた土地(借地権を含む。)、建物又は構築物につき譲渡(令一三八条一項の規定の適用がある借地権の設定を含む。)、除却その他の処分をした場合におけるその処分をしたことによる損益(通達一五-一-一二のただし書の適用がある部分を除く。)」は、キャピタル・ゲインとして、課税しないことができるとしている(通達一五-二-一〇の(1))。

また、収益事業に属していた固定資産の処分損益であっても、それが収益事業の廃止に基因して生じたものである場合には、収益事業の廃止という収益事業の遂行上の原因とは全く別の原因によって生じたいわば清算損益であって、当該収益事業の付随行為による損益とはいえないと考えられることから、通達は「(1)のほか、収益事業の全部又は一部を廃止してその廃止に係る事業に属する固定資産につき譲渡、除却その他の処分をした場合におけるその処分をしたことによる損益」も課税対象から除外できるとしている(通達一五-二-一〇の(2))。

そして、通達では、公益法人が固定資産である土地又は建物の貸付をしたことにより収受する権利金その他の一時金の額については、次の(1)及び(2)の区分に応じて取り扱うこととされている(通達一五-二-一一)。

(1) その土地の貸付により令一三八条一項の規定に該当することとなった場合におけるその貸付により収受する権利金その他の一時金の額は、土地の譲渡による収益の額として通達一五-二-一〇による。

(2) 土地又は建物の貸付に際して収受する権利金その他の一時金で右(1)に該当しないものの額及び土地若しくは建物の貸付に係る契約の更新又は更改により収受するいわゆる更新料等の額は、不動産の貸付に係る収益の額とする。 すなわち、土地譲渡類似借地権の設定の場合は、前記1の趣旨を考慮して、キャピタル・ゲインの取扱いを含む所得計算の特例の適用につき、土地譲渡収益と同様に取り扱うことにしているのである。

二  当時者間に争いのない事実等

1  借地権設定等に伴う権利金収受の経緯(当時者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお、証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲記する。)

(一) 原告は、従前より、相当以前から原告が所有している東京都台東区鳥越二丁目九番五所在の宅地(登記簿上の地積三〇七・二七平方メートル、以下「本件土地」という。)のうち、五一・二三平方メートル(以下「甲土地」という。)をバウルー株式会社(以下「バウルー」という。)に、二五六・一九平方メートル(以下「乙土地」という。なお、右各面積は賃貸借契約上の地積であり、その合計は本件土地の登記簿上の地積とは一致しない。)を筒井幸江(以下「筒井」という。)にそれぞれ賃貸して賃料収入を得、不動産貸付業を営んでいた。バウルーは、甲土地上に木造瓦葺二階建の建物一棟(以下「バウルー建物」という。)を所有し、その全ての部分を、調理、料理用具卸売業を営む同社の店舗、事務所の用に供していた。また、筒井は、乙土地上に木造瓦葺二階建の建物二棟(以下「筒井建物」という。)を所有し、その一部を株式会社筒井(旧商号・株式会社筒井商店。以下「株式会社筒井」という。)に作業所、事務所、倉庫として貸し付けていた。

(二) 原告は、いずれも昭和六一年四月三日、バウルーに四二〇〇万円を支払って甲土地についての賃貸借契約を合意解除するとともにバウルー建物を買い取り、また、筒井に二億三〇〇〇万円を支払って乙土地についての賃貸借契約を合意解除するとともに筒井建物を買い取る旨の契約を締結した。そして、原告は、右同日、株式会社島崎工務店(以下「島崎工務店」という。)から三億七〇〇〇万円(以下これを「本件一時金」という。)の支払を受けて、同社との間で、本件土地につき建物所有を目的とする賃貸借契約(以下、これによる借地権を「本件借地権」という。)を締結するとともに、同社に対し、バウルー建物及び筒井建物を転売(以下、この賃貸借契約及び売買契約を「本件契約」という。)した。

原告は、昭和六一年四月三日、バウルーから甲土地の引渡しを受けたが、その後昭和六一年四月末日ころまで、バウルー建物をバウルーに賃料月額二〇万円で貸し付けていた。また、原告は、前記合意解除後、筒井に乙土地を月額一二万円で賃貸し、筒井から筒井建物及び乙土地の引渡しを受けたのは昭和六二年二月二八日であった。(甲一一号証の一三、一二号証の七、乙二号証の一及び二)

原告は、バウルー建物及び筒井建物並びに本件土地の引渡しを受けた後、昭和六二年二月二八日に島崎工務店に右両建物及び本件土地を引き渡した。島崎工務店は、当初の計画どおり、右両建物を直ちに取り壊し、本件土地上に鉄筋コンクリート造陸屋根五階建の建物三棟を建築し、一棟を同社で使用し、他の二棟をその借地権と共に他の者に譲渡したが、右各建物は、いずれもその一階ないし三階が店舗及び事務所の用に、その四階及び五階が住宅用に供されており、うち二棟は総床面積三八六・二平方メートル中、一階ないし三階の合計床面積は二五六・六八平方メートル、うち一棟は総床面積三七三・〇七平方メートル中、一階ないし三階の合計床面積は二六三・九四平方メートルである。(甲一二号証の六、乙三号証の一)

2  本件課税処分等の経緯

原告の本件事業年度に係る法人税の申告及び更正等の経緯は、別表一のとおりである。

すなわち、原告は、バウルー及び筒井との賃貸借契約の合意解除及び建物購入から本件契約に至る経緯で得た収益九八〇〇万円(島崎工務店から支払を受けた三億七〇〇〇万円と、バウルー及び筒井に対して支払った合計二億七二〇〇万円の差額)から、これに対応する経費三九七万七六三〇円を差し引いた九四〇二万二三七〇円を、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の収益事業以外の事業から発生した資産売却収入として計上し、昭和六二年五月二六日付けで被告に対し、所得金額を七三九万二四六六円、納付すべき法人税額を二〇六万九七〇〇円として申告した。これに対し、被告は、平成元年三月二八日付けで、所得金額を六七四二万三七九〇円、納付すべき法人税額を一八八七万八四〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税を一五七万六五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。原告は、被告に対し、平成元年五月一二日付けで異議申立てをしたが、同年八月三一日付けで棄却され、さらに、同年九月二九日付けで国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、平成三年二月四日付けで棄却された。

3  本件事業年度における法人税額

被告は、本訴において、原告の本件事業年度の所得金額は五一八〇万七一五三円、課税土地譲渡利益金額は六四五六万三三三五円、法人税額は二七四一万八五〇〇円であると主張する(別表二ないし五記載のとおり。)。

すなわち、被告は、本件一時金が原告の収益事業による益金となることを前提とし、キャピタル・ゲインとして非課税となる部分をバウルー及び筒井に対する旧借地権部分を除いた旧底地権部分に係るものに限るとして、後記のとおり計算した六八六〇万円を所得金額に加算し、また、乙土地の貸付が収益事業に該当することを前提として、乙土地の賃貸料収入として原告が本件事業年度に収受した一四四万円(昭和六二年二月二八日まで一一か月間は筒井から、同年三月一日から同月三一日までの一か月間は島崎工務店からの各一月当たり一二万円の賃貸料収入)を所得金額に加算するなどして、別表二ないし四のとおりの計算により、本件事業年度の原告の所得金額を五一八〇万七一五三円、右所得金額に係る法人税額を一四五〇万五九〇〇円とし、また、本件借地権の設定が収益事業に該当する以上、土地又はその上に存する権利である借地権をその取得と同時に又は短期間保有した後に譲渡(土地譲渡類似借地権の設定等を含む。)した場合、すなわち、本件土地につき旧借地権の消滅と新たな借地権の設定があったとした場合、右譲渡に係る課税土地譲渡利益金額については租税特別措置法六三条に規定する土地譲渡重課税(二〇パーセント)が課せられるとして、別表五のとおりの計算により、課税土地譲渡利益金額を六四五六万三三三五円とし、これに係る法人税額を一二九一万二六〇〇円として、結局、本件事業年度の法人税額は合計二七四一万八五〇〇円となって、本件更正に係る法人税額を上廻ることになるから、本件更正等は適法である旨主張する。

原告は、本件借地権の設定は収益事業の行為に該当せず、あるいはキャピタル・ゲインとして非課税となる旨、また、筒井に対する乙土地の貸付はそもそも非収益事業であり、バウルー建物を島崎工務店へ譲渡して借地権を設定したことによる損益は清算損益に当たるから、いずれにしても本件一時金に関する課税はできない旨、また、本件事業年度における乙土地の賃貸料収入は非収益事業によるものであるから課税の対象とならない旨主張するが、被告の主張を前提とした場合の税額の計算自体については争わない(なお、原告は、確定申告額に被告主張のとおり一〇円の計算誤りがあることは争わない。)。つまり、本件一時金が原告の収益事業の益金となり、かつ、清算損益にも当たらないとした上、キャピタル・ゲインとして非課税になる部分を被告主張のとおりバウルー及び筒井に対する旧借地権部分を除いた旧底地権部分に係るものに限るとし、さらに、乙土地の貸付が主として住宅の用に供される土地の貸付業に当たらないとした場合、原告の法人税額が被告の主張どおりとなることについて、当事者間に争いがないこととなる。

三  本件の争点

本件においては、前記のとおり、原告が島崎工務店に新たに本件土地を賃貸し、これによって収受した本件一時金が、原告の収益事業による益金となるか否か、本件一時金が収益事業の廃止により譲渡した固定資産に係る清算損益として非課税になるか否か、仮に本件一時金が原告の収益事業による益金となるとしても、キャピタル・ゲインとして非課税になる部分をどのように判断するか、また、本件事業年度の賃貸料収入の関係で乙土地の貸付による賃貸料収入が収益事業による益金となるか否かが争いとなっている。これらの点に関する当事者の主張は、以下のとおりである。

1  被告の主張

(一) 本件借地権設定行為の収益事業行為性

(1) 土地譲渡類似借地権の設定行為が不特定又は多数の者を対象として反復又は継続的に土地譲渡類似借地権の設定を行う事業の一環として行われた場合には、その行為は不動産販売業に該当するものというべきである(通達一五-一-一二)。しかるに、本件借地権の設定は、不特定又は多数の者を対象として反復又は継続的に土地譲渡類似借地権の設定を行う事業の一環として行われたものではないので、これによる土地譲渡類似借地権の設定行為は、不動産販売業には当たらない。

(2) 一般に、収益事業を営む公益法人がその収益事業に属する土地について土地譲渡類似借地権を設定する行為は、当該収益事業の付随行為に当たるものと解されているところであるが、借地権を設定する行為は、たとえそれが土地譲渡類似借地権に係るものであっても、不動産の賃貸にほかならないのであるから、右(1)のようにそれが不動産販売業に当たらない場合には、本来的な不動産貸付業への該当性が問題となる。すなわち、不動産貸付業を営む公益法人等が土地譲渡類似借地権の設定をした場合には、税務上は土地の譲渡があったものとして取り扱われ、右(1)の要件を充たす場合には不動産販売業に該当することとなる。しかし、その取扱いの趣旨は、右のように土地の処分損益とみなされた収益について、キャピタル・ゲインの取扱いを含む各種の特例規定を適用するということにあるのであって、その限度においては、土地譲渡類似借地権の設定行為は土地の部分的譲渡とみるべきであるけれども、土地譲渡類似借地権の設定行為をあらゆる場合に土地の譲渡とみなして、その収益事業性を判断する場合にまで該当する業種を不動産販売業に限る必要性はなく、土地譲渡類似借地権の設定が正に不動産の賃貸行為であることに照らせば、それが右(1)のように不動産販売業の行為に該当しない場合には、収益事業としての不動産貸付業の本来的行為への該当性を検討すべきこととなるものというべきである。

そして、当該借地権の設定後における島崎工務店への本件土地の貸付業は、収益事業から除外するものとして令五条一項五号イないしチに掲げられている事業には当たらないから、本件借地権の設定は収益事業としての不動産貸付業の本来的行為に当たることとなる。

(3) 仮に、本件借地権の設定が土地の譲渡とみなされることにより不動産貸付業の本来的行為に当たらないこととなるとしても、島崎工務店への貸付業が収益性を有することは右(2)のとおりである上、バウルーとの賃貸借関係も収益事業であり、また、筒井建物は、その総床面積三九七・四三平方メートルのうち、少なくとも二〇三・八二平方メートルが株式会社筒井の作業所、事務所、倉庫の用に供されていたから、筒井との賃貸借関係も収益事業に当たる。したがって、本件土地は一貫して課税対象となる不動産貸付業の用に供されているのであるから、本件土地の賃貸は、収益事業たる不動産貸付業に属する土地の譲渡(通達一五-一-六の(6))として、収益事業の付随行為に当たるものである。

(4) そうすると、いずれにせよ本件借地権の設定は、収益事業の行為ということとなる。

(二) 本件一時金の清算損益性

本件契約は、本件土地を島崎工務店に貸し付けることを目的とするものであるから、原告がバウルーから引渡しを受けた建物を、島崎工務店に貸し付けるまでの間、他に貸し付けなかったことはむしろ当然であり、このことをもって原告が収益事業を廃止したとは到底いえず、右建物は継続して原告の営む不動産貸付業の用に供されていたといえる。その上、土地所有者が当該土地について既に設定されている借地権を消滅させた後、当該土地について土地譲渡類似借地権を設定させる行為は、正に不動産貸付業本来の行為である。したがって、本件借地権の設定は、何ら不動産貸付業の廃止に伴う固定資産の処分行為には当たらない。

(三) キャピタル・ゲインの範囲について

公益法人が、自己の所有土地に設定されている借地権を消滅させた上で新たに土地譲渡類似借地権の設定をしたことにより収受した一時金のうち、どの部分がキャピタル・ゲインとして非課税となるかについては、課税実務上これを直接定めた通達等は存在しないが、法人税法上、旧借地権を消滅させた後に当該土地に新たな借地権を設定した場合には、消滅した借地権そのものが譲渡されたものとみることはできず、新たに設定された借地権は、当該土地を、独立した経済的価値を有すると認められる旧借地権に係る部分の土地とそれ以外の旧底地権に係る部分の土地に分けた上、設定時における右各部分の価額の比により双方に平均的に設定されたものと考え、借地権の消滅時におけるそれぞれの時価の割合で按分して新たな借地権の対価の額及び原価の額を計算した上、右各部分が当該公益法人等において相当期間保有されていたかどうかにより、キャピタル・ゲインとして非課税となるか否かを判定するのが最も合理的といえる。租税特別措置法関係通達(法人税編)六三(2)-八の(2)及び六三(3)-二の(2)、所得税基本通達三三-一一の二及び三八-四の二も、同様の場合に同様の趣旨を定めている。

右の方法により計算すると、旧借地権部分に係る対価の額(新たに設定した借地権の対価の額三億七〇〇〇万円に、旧借地権の消滅時の当該土地の更地価額のうちに旧借地権部分につき支払った立退料等の額の占める割合である七〇パーセントを乗じて得た金額)は二億五九〇〇万円、旧借地権部分に係る原価の額(当該土地につき新たに設定した借地権に係る令一三八条一項の規定による損金算入額一億九〇四〇万円に旧借地権部分につき支払った立退料等の額二億七二〇〇万円を乗じ、更に本件土地の帳簿価額二億七二〇〇万円で除して得た金額)は一億九〇四〇万円であるから、キャピタル・ゲインに該当せず課税対象となる旧借地権の譲渡損益の額は六八六〇万円となる。

(四) 乙土地貸付の収益事業行為性

筒井建物の総床面積の二分の一を超える部分が、筒井株式会社の作業所、事務所、倉庫の用に供されていたことは前記(一)(3)のとおりであり、右建物の敷地として使用されていた乙土地の貸付は令五条一項五号への「主として住宅の用に供される土地の貸付業」に該当しないから、右貸付業は収益事業に該当し、本件事業年度において原告が収受すべき乙土地の賃貸料収入は、課税の対象となる。

2  原告の主張

(一) 本件借地権設定行為の収益事業行為性

(1) 本件借地権は土地譲渡類似借地権であって、その設定は、税務上、土地の譲渡とみなされる(令一三八条一項、通達一五-二-一一の(1))。しかし、本件借地権の設定行為は、不特定又は多数の者を対象として反復又は継続的に土地譲渡類似借地権の設定を行う事業の一環としてなされたものではないから、不動産販売業には該当しない。

(2) また、右設定行為の収益事業行為性については、右のとおり、それが土地の譲渡であることを前提として判断すべきであるから、土地の譲渡とみなされた右借地権の設定が不動産貸付業の本来的行為に当たるということはあり得ない。被告の主張(一)の(2)は、土地譲渡類似借地権の設定行為が、あるときは不動産販売業の行為となり、あるときは不動産貸付業の行為となることを容認するものであり、租税法律主義に反するものである。

もっとも、右借地権の設定が、収益事業である不動産貸付業の付随行為、とりわけ通達一五-一-六の(6)に規定する、収益事業である不動産貸付業に属する土地の処分行為に当たるか否かは検討の対象となる。しかるに、甲乙両土地とも、従前の賃貸借関係はバウルーと筒井から借地権付建物を買い取ったときに終了してしまっているから、本件借地権の設定時点においては、甲乙両土地ともに、付随すべき不動産貸付業は既に存在せず、本件契約は、収益事業に属しない借地権の処分行為として、右の付随行為には該当しないこととなる。仮に、収益事業に属するか否かを旧借地関係の収益事業性により判断すべきであるとしても、筒井は、筒井建物の一部を筒井株式会社に賃貸していたにすぎず、その総床面積一二〇坪のうち六五坪以上を自らの居住の用に供していたのであるから、原告の筒井への乙土地の貸付は、「主として住宅の用に供される土地の貸付業」として、非収益事業になる(令五条一項五号へ)ので、乙土地は、収益事業に属する土地には当たらない。また、借地権を処分する際の損益は、賃貸における損益に比べて桁違いに大きいから、前者が後者に付随するということはいえない。さらに、土地所有者の主観的認識においても主従関係はなく、両者は全く別個に計画・実行されるものである。したがって、本件借地権の設定行為は、収益事業に付随する行為とはいえない。

(3) したがって、いずれにせよ、本件の島崎工務店に対する借地権設定行為は、収益事業に当たらない。

(二) 本件一時金の清算損益性

バウルーに対する甲土地の賃貸は収益事業に当たるが、原告は、昭和六一年四月三日にバウルー建物を借地権付で買い取った時点で、甲土地についての収益事業を廃止し、その後島崎工務店と締結した昭和六二年二月二八日付け土地賃貸借契約に基づく甲土地の賃貸借の開始日である同年三月一日までの期間は、収益事業を廃止したままであった。したがって、本件契約のうち、バウルー建物を島崎工務店へ譲渡し、これに係る借地権を設定したことにより発生した損益は、収益事業の廃止に伴う固定資産の処分損益に当たるから、非課税とすべきである。

(三) キャピタル・ゲインの範囲について

仮に、本件借地権の設定が収益事業に当たり、かつ、本件一時金が清算損益性を有しないとしても、本件土地は、原告が相当期間にわたり固定資産として保有していたものであるから、その処分としての本件借地権設定による損益は、キャピタル・ゲインとして、非課税となる。なお、旧借地権の部分は、経済的・実質的にみれば、バウルー及び筒井から原告に復帰してからほどなくして島崎工務店に転売されているのであるが、法的には、原告がバウルー及び筒井との従前の借地権を合意解除したことにより旧借地権は消滅しているのであるから、旧借地権に対応する部分は、旧底地権部分と一体となり、本件土地全体が右の「相当期間にわたり固定資産として保有していた土地」に該当するものというべきである。

(四) 被告の主張の不明確性

被告の主張は、土地譲渡類似借地権の設定を、あるときは不動産販売業としてとらえ、あるときは不動産貸付業としてとらえるなど極めて技巧的で分かりにくく、課税される場合とされない場合の区別が恣意的かつ不明確で、租税法律主義の趣旨に反する。

(五) 乙土地貸付の収益事業性

乙土地の貸付が「主として住宅の用に供される土地の貸付業」として非収益事業となることは前記(一)(3)のとおりであるから、その賃貸料収入は課税の対象とはならない。

第三争点に対する判断

一  本件借地権設定行為の収益事業行為性

不動産貸付業とは、一般に土地、建物等の不動産を他人に利用させてその対価を得る事業をいうところ、借地権の設定は、他人に土地を貸し付けてその対価を得るための基本的行為であり、本来的に不動産貸付業の行為であるというべきであって、土地譲渡類似借地権の設定の場合においても、その行為の性質自体は、原則として土地を貸し付けるという不動産貸付業そのものの行為にほかならない。

ところで、土地譲渡類似借地権の設定が、経済的実質的にみれば、土地所有権の一部譲渡と同視できることにかんがみ、税務上、土地譲渡類似借地権の設定により収受された権利金等が土地の部分的譲渡の対価として取り扱われる場合があることは前記のとおりである(令一三八条一項等)。

そこで、公益法人の収益事業行為性を判断するに当たっての土地譲渡類似借地権の設定の取扱いについてみるに、不動産販売業の範囲について規定する通達一五-一-一二は、公益法人が土地の造成等を行って分譲する行為が原則として不動産販売業に該当することを明示するとともに、そのような分譲等が行われた場合でも、その土地が相当期間固定資産として保有され、かつ、造成等が土地の譲渡を容易にするために行われた場合には、分譲という不特定又は多数の者を対象とする販売行為の処分形態をとってはいるものの、その譲渡益のうち造成等により付加された部分以外がキャピタル・ゲインの実現であることにかんがみて、不動産販売業には該当しないものとしている。そして、その注において、土地の分譲に代えて土地譲渡類似借地権を設定する場合にも同様の取扱いをするものとしている。これは、土地の分譲に代えて土地譲渡類似借地権の設定を行うような場合、その設定行為は、不特定又は多数の者を対象として反復又は継続的に土地譲渡類似借地権の設定を行う事業の一環としてなされる限り、不動産貸付業の行為として通常行われる特定の者を対象とする借地権の設定とは異なる実態、つまり不動産販売業の実態を備えることになることから、不動産販売業と同様の取扱いをすることが相当であるとの考慮に基づいているものと解されるのである。

しかるに、本件借地権の設定は、不特定又は多数の者を対象として反復又は継続的に土地譲渡類似借地権の設定を行う事業の一環として行われたものでないことについては当事者間に争いがないから、同通達の注が予定している場合には該当せず、これを不動産販売業の行為と扱うことはできない。したがって、本件借地権の設定は、その本来の性質からみて、土地を貸し付けるという事業の開始に伴って行われた不動産貸付業そのものの行為に該当するというべきである。

原告は、本件借地権は土地譲渡類似借地権であり、その設定は、税務上、土地の譲渡とみなされることからすれば、その収益事業行為性を判断するに当たっても、それが、土地の譲渡であることが前提となるものというべきであるから、土地の譲渡とみなされた右借地権の設定が不動産貸付業の本来的行為に該当するということはでない旨主張する。

しかしながら、税務上、土地譲渡類似借地権の設定により収受した権利金等が、土地の部分的譲渡の対価として取り扱われることがあるとしても、そのことによって直ちに土地譲渡類似借地権の設定行為が土地の譲渡行為と同様の法的性質を有することになるわけではなく、収益事業性の判断に当たって、すべての土地譲渡類似借地権の設定行為が当然に不動産販売業そのものの行為に該当することになるとはいえない。不動産販売業への該当性の要件を定める通達一五-一-一二においても、すべての土地譲渡類似借地権の設定行為が当然に不動産販売業の行為に該当するとしているわけではなく、土地の分譲に代えて土地譲渡類似借地権の設定を行うといった一定の場合に限って、不動産販売業の行為に該当する旨を規定しているにすぎない。また、前記のとおり、通達には一五-二-一〇、一五-二-一一等、土地等の譲渡に土地譲渡類似借地権の設定を含ませる規定があるが、右各通達は、収益事業に係る所得の計算に関する通達であり、その趣旨は、所得の計算、とりわけ、キャピタル・ゲインの取扱いを含む各種の特例規定の適用につき、土地譲渡類似借地権の設定についても土地の譲渡の場合と同様に取り扱うことにあるものと解される。したがって、これらの通達の存在をもってしても、土地譲渡類似借地権の設定が、収益事業性の判断の場面において、当然に不動産販売業の行為となるということはできない。原告の主張するように、土地譲渡類似借地権の設定が当然に土地の譲渡と同視されるとすると、これが不動産販売業の本来的行為に該当しない場合は、さらに不動産貸付業の付随行為としての土地の処分に該当するか否かを判断することになるが、不動産を貸し付けてその対価を得るための基本的行為にほかならない借地権の設定につき、不動産貸付業の付随行為性を判断することは極めて不自然であるといわざるをえない。むしろ、土地譲渡類似借地権の設定も、原則としては不動産貸付業そのものの行為に該当すると解するのが自然であり、その上で権利金等一時金の取扱いについては、通達一五-二-一一(1)の規定が適用され、土地の譲渡による収益の額として同一五-二-一〇の取扱いを受けることになると解すべきである(原告の主張するように、土地譲渡類似借地権の設定が当然に土地の譲渡と同視されるものだとすれば、借地権利金等の取扱いについて別途規定を設けた上、通達一五-二-一〇の規定を適用するとしている通達一五-二-一一の存在意義は希薄になる。)。

以上のとおり、本件借地権の設定は、不動産貸付業の本来的行為というべきであり、収益事業から除外するものとして令五条一項五号イないしチに掲げられている事業には当たらないから、その余の点について判断するまでもなく、法七条にいう収益事業の行為に該当するものということができる。

二  本件一時金の清算損益性

前記のとおり、原告は、昭和六一年四月三日に甲土地の賃貸借契約を合意解除した後、昭和六二年二月二八日に島崎工務店にバウルー、筒井両建物及び本件土地を引き渡すまでの間、甲土地を他に賃貸していなかったのであるが、本件契約は、本件土地を島崎工務店に貸し付けることを目的とするものであるから、原告がバウルーから引渡しを受けた甲土地を、島崎工務店に貸し付けるまでの間、他に貸し付けなかったことは当然であり、このことをもって原告が収益事業を廃止したとは到底いえず、甲土地を含む本件土地は継続的に不動産貸付業の用に供されていたものというべきである。したがって、この点に関する原告の主張は採用できず、本件借地権の設定は不動産貸付業の廃止に伴う固定資産の処分行為には当たらないというべきである。

三  キャピタル・ゲインの範囲について

公益法人が、自己の所有土地に設定されている借地権を消滅させた上で新たに土地譲渡類似借地権の設定をしたことにより収受した一時金のうち、どの部分がキャピタル・ゲインとして非課税となるかについて検討するに、その場合、消滅した借地権そのものが譲渡されたものとみることはできず、新たに設定された借地権は、概念上は、独立した経済的価値を有すると認められる旧借地権に係る部分の土地とそれ以外の旧底地権に係る部分の土地に分けた上、右設定時における右各部分の価額の比により双方に平均的に設定されたものと考え、借地権の消滅時におけるそれぞれの時価の割合で按分して借地権の対価の額及び原告の額を計算した上、右各部分が当該公益法人等において相当期間保有されていたかどうかを判定し、キャピタル・ゲインとして非課税となるか否かを判断するのが合理的であるというべきである。

原告は、バウルー及び筒井との従前の借地権の合意解除により旧借地権は消滅しているのであるから、旧借地権に対応する部分は、その時点で旧底地権部分と一体となり、本件土地全体が「相当期間にわたり固定資産として保有していた土地」に該当し、本件一時金の全額がキャピタル・ゲインとして非課税になると主張する。しかし、課税実務上、キャピタル・ゲインを課税の対象から除外したのは、前記のとおり、資産の長期にわたる保有期間中に所有者自身による直接の事業活動によらない他律的要因によって生じた資産の値上がり益を課税の対象とすることが現行の公益法人等に対する収益事業課税制度の趣旨からみて相当でないことによるものであるところ、収益事業の一環として旧借地権を消滅させて新たに土地譲渡類似借地権を設定した場合においては、貸主において旧底地権に係る部分は保有しているものの、旧借地権に係る部分は、借地人に部分的に譲渡し、貸主において保有してなかったものと考えられるから、新借地権の設定により収受した一時金のうち旧借地権に対応する部分は、正に所有者自身の収益事業活動により得られた収益であるとみるべきであって、この部分までもキャピタル・ゲインとして非課税とすることは、かえって現行の公益法人等に対する収益事業課税制度の趣旨に反することとなる。したがって、原告の右主張は採用できない。

四  租税法律主義違反について

原告は、被告の主張は不明確であり、租税法律主義の趣旨に反すると主張する(原告の主張(四))。およそ法律というものは、現実に生起するあらゆる事案について二義を許さない程度に明確に定めることは不可能であり、租税法律主義の下にある租税法の分野においても、解釈により運用の不明確な部分を補充する必要が生じる事態は避け難いものであるところ、本件事案に関する関係法令の適用に当たっては、前記一から三に判示したような解釈をとるのが最も合理的な理論的帰結といわざるを得ないのである。原告の主張するところは、結局、土地譲渡類似借地権の設定がいかなる場合も不動産販売業に該当するとの解釈を前提として、解釈の恣意性又は不明確性をいうものにすぎず、この点については前記一のとおり、土地譲渡類似借地権の設定が不動産販売業に当たるか不動産貸付業に当たるかは、不特定又は多数の者を対象として反復又は継続的に行われる事業の一環として行われたか否かという客観的な基準によって決せられるのであり、このような解釈をとることが租税法律主義に反するとは到底いえないものである。

五  乙土地貸付の収益事業性

乙土地貸付の収益事業性を判断するに当たっては、令五条一項五号へ、通達一五-一-二〇により、筒井建物の総床面積の二分の一以上が居住の用に供されていたか否かが問題となるところ、証拠(乙一号証の一ないし七、一一号証、一二号証の一及び二、証人筒井幸江及び同筒井歳雄の各証言)によれば、以下の事実が認められる。

筒井建物は、家屋番号九番五の一(登記簿上、種類は車庫・居宅とされ、床面積は一、二階合計二〇三・八二平方メートルとされていた。)と九番五の二の建物(登記簿上、種類は居宅とされ、床面積は一、二階合計一九三・六一平方メートルとされていた。)の二棟であるが、うち一棟は筒井らの自宅として使用され、うち一棟は筒井株式会社に賃貸されて(以下「会社使用建物」という。)、同社の作業所、事務所、倉庫等として使用されていた。筒井株式会社との賃貸借契約書には、会社使用建物の床面積は合計二〇四平方メートルと記載され、また、右建物を筒井株式会社が明け渡す際の建物明け渡し契約書には、会社使用建物の床面積は延べ二〇三・八一平方メートルと記載されており、家屋番号九番五の一の建物の登記簿上の床面積とほぼ一致している。また、会社使用建物には車庫部分があったところ、家屋番号九番五の一の建物の登記簿上の種類は車庫・居宅となっている。筒井建物の概況はほぼ別紙間取図のとおりであり、同図における家屋番号九番五の一と同番五の二の建物の区分は必ずしもはっきりしないが、同図に応接室と記載されている部屋(以下「応接室」という。)は主として同社の接客用に、また、右応接室と廊下部分を挟んで向かい側にある和室(以下「和室」という。)は同社の倉庫として使用され、実際に筒井株式会社で使用していた部分は、同図の青線で囲んだ部分であり、筒井らが自宅として使用していた赤線で囲んだ部分より、広くなっている。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右認定によれば、登記簿上の床面積の記載からも、また、実際の使用状況に照らしても、筒井建物は、筒井株式会社で使用していた部分の床面積の方が広いことになる。

原告は、筒井らの自宅として使用された建物は会社使用建物より先に建築されているから、家屋番号の若い九番五の一の建物が自宅として使用されていた部分であると主張するが、家屋番号の順序と建築の前後は必ずしも一致するものではなく、登記簿上の床面積、種類等の記載等からみれば、筒井株式会社との賃貸借の対象となっていた会社使用建物は家屋番号九番五の一の建物とみるべきである。また、原告は、応接室及び和室は専ら筒井らの自宅として使用されていたものであるから、実際に居宅として使用されていた部分の床面積の方が広い旨主張し、甲一三号証及び証人小宮山格の証言中にはこれに沿う記載及び証言部分があるが、右は乙一号証の一及び七の記載、証人筒井幸子及び同筒井歳雄の各証言に照らして信用できず、前記認定を覆すに足りない。

以上によれば、いずれにしても、筒井建物はその床面積の二分の一以上が居住の用に供されていた建物ということはできず、乙土地の貸付が非収益事業に該当するとはいえない。

したがって、本件事業年度における乙土地の貸付に係る賃貸料収入は収益事業による所得として課税の対象になるものといわざるをえない。

六  原告の法人税額等の計算

そこで、右一、二の判断、右三の方法によるキャピタル・ゲインの部分の判定及び右五の判断を前提として計算すると、原告の本件事業年度の所得金額は五一八〇万七一五三円、課税土地譲渡利益金額は六四五六万三三三五円、納付すべき法人税額は二七四一万八五〇〇円となり(この計算は、当事者間に争いがない。)、いずれも本件更正における額を超えることとなる。

七  結論

そうすると、本件更正及び本件賦課決定は適法であり、原告の請求はいずれも棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

別表一

本件課税処分の経緯

〈省略〉

別表二

所得金額の計算及び根拠

〈省略〉

別表三

公益法人等の場合の寄付金の損金算入に関する計算

〈省略〉

別表四

増加した経費の損金算入額の明細

〈省略〉

別表五

課税土地譲渡利益金額の計算

〈省略〉

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